雨水を貯める機能と地中へ浸透させる機能をあわせ持つハイブリッド型。BCP視点で、自社の敷地に合うかを判断するポイントを解説します。
まず押さえたい雨水貯留槽の基本タイプ
貯留型|雨水を一時的に貯めてゆっくり流す
貯留型は、地下の槽に雨水を一時的に貯め、下水道や河川へ流してよい量(許容放流量)だけを時間をかけて放流するタイプです。大雨時に雨水が一度に流れ込むのを抑えることが主な役割です。貯めた雨水を散水やトイレの洗浄水、災害時の緊急用水源として再利用できる施設もあります。浸水対策だけか、水の再利用まで考えるかが最初の判断軸です。
浸透型|雨水を地中にしみ込ませる
浸透型は、槽に集めた雨水を地中へしみ込ませ、下水道や河川への流出を抑えるタイプです。プラスチック部材を透水シートで包んだ地下浸透槽のほか、浸透ますや透水性舗装もあります。土地が水を吸い込めることが導入の前提です。
雨水貯留槽のハイブリッド型(貯留浸透併用型)とは
下部で水を貯め、上部で浸透させる構造
雨水貯留槽のハイブリッド型(貯留浸透併用型)は、槽の下部に一定量の雨水を常に貯め、上部に入った雨水を地中へ浸透させる構造です。下部の貯留水はトイレの洗浄水や散水などに利用できます。浸透機能の併用は地下水の涵養(地下水を補うこと)にもつながります。なお「ハイブリッド型」はメーカー共通の名称ではなく、「貯留浸透型」「貯留+浸透システム」など製品ごとに呼び方が異なります。カタログを比較する際は、名称ではなく構造で確認してください。
「ハイブリッド雨水貯留システム」との違いに注意
「ハイブリッド雨水貯留システム」という名称の技術は別物です。地下貯留施設の流入部にゴミ除去装置、流出部に流量制御装置を組み合わせたもので、浸透機能の併用を指す名称ではありません。情報収集の際は混同に注意しましょう。
一般的な雨水貯留槽とハイブリッド型の違い
一般的な雨水貯留槽(貯留型)は遮水シートで槽を囲って雨水を貯め、浸透型は透水シートを通して地中へしみ込ませます。ハイブリッド型は、この二つの構造を一つの槽に組み合わせたものです。違いを整理すると次のとおりです。
| 項目 | 貯留型 | 浸透型 | ハイブリッド型 |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 流出抑制(利水に使う施設もある) | 流出抑制 | 流出抑制と利水 |
| 貯めた水の扱い | ゆっくり排水する、または利水に使う | 一時的に貯めた後、徐々に土中へ浸透 | 下部に一定量を常時貯め、利水に使う |
| 浸透の有無 | なし | あり | あり(上部) |
| 土地条件の制約 | 地下水位が高い場所でも計画できる(浮力の検討は必要) | 地下水位・土質・斜面などの条件を満たす必要がある | 浸透型と同様の条件を満たす必要がある |
注意したいのは、流出抑制を目的とする貯留施設は次の降雨に備えて「空」にしておくのが原則で、貯めた雨水を他の用途に使えないケースがある点です。浸水対策だけが目的で土地の浸透条件に不安があるなら貯留型、非常用水も確保したく地下水位などの条件を満たせるならハイブリッド型が検討対象になります。
参照元:ソイル工業株式会社「雨水貯留浸透工法システム サン ジオキューブ」(https://www.ipros.com/product/detail/2000131462/)
参照元:品川区「雨水流出抑制施設技術指針」【PDF】(https://www.city.shinagawa.tokyo.jp/ct/other000042900/usuiryuusyutu-gijyutushishinn.pdf)
ハイブリッド型がBCP対策で役立つ理由
豪雨時の雨水流出を抑え、浸水リスクを軽減できる
都市部では、ゲリラ豪雨などで雨水が短時間に河川や下水道へ集中し、道路冠水などの水害が多発しています。一方、水害を想定したBCPは地震を想定したBCPに比べて策定が進んでいません(大企業で約50%、中堅企業で約32%)。ハイブリッド型は上部で雨水を地中へ浸透させて敷地外への流出を減らすため、浸水リスクの軽減が期待できます。
参照元:国土交通省 北陸地方整備局 信濃川河川事務所「【参考】水害BCPの作成状況」(内閣府「企業の事業継続の取組に関する実態調査」平成24年3月)【PDF】(https://www.hrr.mlit.go.jp/shinano/shinanogawa_info/gensai/pdf/05_04.pdf)
参照元:積水化学工業株式会社 エスロンタイムズ(https://www.eslontimes.com/product/civil/309/)
断水時のトイレ・清掃・消火用水を確保できる
下部に常時貯めた雨水は、断水などの緊急時にトイレの洗浄水や清掃用水、消火用水の代替水源として使えます。ただし処理した雨水も通常は飲用に適さないため、飲料水は別に備蓄が必要です。災害時の使用を想定するなら、施設の耐震性と、ポンプなど設備の非常用電源もあわせて確保してください。また、流出抑制のための容量は空にしておく必要があるため、利水用に常時貯める容量と、豪雨時に受け止める容量は分けて設計します。
参照元:国土交通省「雨水の利用の推進に関する基本方針」【PDF】(https://www.mlit.go.jp/common/001082067.pdf)
ハイブリッド型の雨水貯留槽が合う企業・土地
合う企業|工場・倉庫・商業施設など敷地が広く非常用水のニーズがある企業
プラスチック製の地下貯留浸透槽は、商業施設の駐車場や学校のグラウンドなどの地下に埋設でき、地表面はそのまま利用できます。郊外型大型店の駐車場地下も設置場所の例です。そのため、屋外駐車場や空地を持つ工場・倉庫・商業施設は設置スペースを確保しやすくなります。加えて、トイレや清掃で雑用水を日常的に使う企業や、災害時に従業員・来客向けの水が必要な企業は、下部の貯留水を活かせます。
合う土地|地下水位が低く、水がしみ込みやすい土地
上部の浸透機能を活かすには、地下水位が低く、水がしみ込みやすい土質であることが前提です。基準は自治体ごとに異なります。例えば品川区では、地下水位が地盤面より1.0m以上低い場合に浸透施設の設置を検討します。横浜市では、地下水位が地盤から2m未満の場所や固結シルトの地層は浸透に不向きと判定され、「浸透施設設置判断マップ」で可否を確認できます。最終判断は自治体基準と現地調査、メーカーへの相談で行いましょう。
参照元:品川区「雨水流出抑制施設技術指針」【PDF】(https://www.city.shinagawa.tokyo.jp/ct/other000042900/usuiryuusyutu-gijyutushishinn.pdf)
引用元:横浜市「排水設備要覧」第3章【PDF】(https://es.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/kasen-gesuido/gesuido/setsuzoku/haisui/youran.files/0023_20250314.pdf)
ハイブリッド型が向かない土地と代わりの選択肢
急な斜面の付近や土壌汚染のある工場跡地・埋立地、急傾斜地崩壊危険区域などは、浸透施設の設置が禁止される例があります。地下水位が高い土地では、浸透させずに貯留型を計画するのが代わりの選択肢です。
参照元:佐倉市「雨水貯留浸透施設設置基準」【PDF】(https://www.city.sakura.lg.jp/material/files/group/42/kijun.pdf)
参照元:品川区「雨水流出抑制施設技術指針」【PDF】(https://www.city.shinagawa.tokyo.jp/ct/other000042900/usuiryuusyutu-gijyutushishinn.pdf)
ハイブリッド型の導入前に確認しておきたいポイント
設計に入る前に、敷地について次の項目を確認しておきます。
- 地下水位(槽にかかる浮力の検討)
- 土質と埋設物(障害物)の有無
- 地表部の利用目的(駐車場か緑地か)と、上部での消防活動・植樹の有無
- 崖地の有無と、建物・擁壁の基礎の影響範囲にかからないか
あわせて、雨水流出抑制の条例や助成制度・優遇税制は自治体ごとに異なります。計画の初期段階で設置予定地の自治体に確認すると、必要な対策量や使える支援を設計に反映できます。
まとめ
雨水貯留槽のハイブリッド型は、下部で雨水を貯めて利水し、上部で地中へ浸透させる構造です。豪雨時の流出抑制と断水時の非常用水確保を一つの施設で検討できるため、敷地に余裕があり雑用水の需要がある企業のBCP対策の選択肢になります。浸透には地下水位や土質の条件があるため、自治体基準と現地調査をもとにメーカーへ相談しましょう。

