雨水貯留槽には、プラスチック製とコンクリート製の2つの選択肢があります。プラスチック槽は軽量で設置が容易であり、コンクリートに比べて空隙率が高く、施工にかかる時間やコストを大幅に削減できます。一方、コンクリート槽は耐久性に優れ、大規模な容量や安定した地盤が必要な場合に最適です。用途や地盤条件、予算に応じて、最適な素材を選ぶことが重要です。
プラスチック槽の利点
軽量で設置が簡単
プラスチック槽は、その軽量さが大きな特徴です。従来のコンクリート槽に比べて、部材が非常に軽く、重機を必要とせずに人力での設置が可能です。これにより、設置にかかる時間と労力が大幅に削減され、スピーディな施工が実現します。
高い耐腐食性
プラスチック槽は、腐食に強い素材で作られているため、長期にわたり耐久性を維持します。特に水や湿気が多い環境での設置において、錆や劣化が発生しにくく、維持管理の手間が少なく済むのが大きな利点です。
高い耐震性
軽量であるにもかかわらず、プラスチック槽は優れた耐震性を持っています。震度6強から7相当の地震にも耐える構造を備えており、地震が多い地域においても信頼できる選択肢となります。
柔軟性と多様な形状
プラスチック槽は、その素材の特性により、さまざまな形状に対応可能です。現場の条件や設計に合わせて柔軟にカスタマイズできるため、特殊な地形や狭いスペースにも適用できるのが大きな魅力です。
手頃な価格
プラスチック槽は、設置の容易さや維持管理のしやすさに加え、コストパフォーマンスにも優れています。特に、短期間で設置できるため、労務費や工期の削減が可能で、全体のコストを抑えることができます。
リサイクル可能
環境に配慮した素材を使用しているプラスチック槽は、リサイクルが可能です。使用後も廃棄物として処理するのではなく、再利用することができ、サステナビリティを重視する現代の建設環境に適しています。
コンクリート槽の利点
圧倒的な耐久性
コンクリート槽は、堅牢な構造による高い耐久性が特徴です。設置後、長期間にわたって使用可能であり、雨水の貯留や浸透に対して優れた耐久性を発揮します。特に、外部の環境変化にも強く、耐用年数が長いことが魅力です。
耐火性と耐熱性
コンクリートは耐火性と耐熱性に優れているため、火災や高温の環境でも安全に使用できます。このため、火災リスクのある場所や高温環境でも安定した性能を発揮し、槽自体の劣化を防ぐことができます。
大容量に対応
コンクリート槽は、大規模な貯留容量を必要とする施設に適しており、大量の雨水を貯めることが可能です。特に、プレキャスト方式で製造されたコンクリート槽は、大規模プロジェクトにおいても効率的に導入できる利点があります。
メンテナンスが少ない
コンクリート槽は、頑丈な構造により、定期的なメンテナンスが少なくて済みます。内部が大きな空間を持つため、メンテナンス時にも容易にアクセスでき、堆積物の除去や清掃が簡単に行える設計になっています。
土被りが少なくても安定性が高い
コンクリート槽は、土被りが少ない場所でも高い安定性を保つことができます。その重量と強度により、地下の圧力に対しても安定しており、設置場所の選択肢が広がります。
浮力に対する耐性
コンクリート槽は、その重量により浮力の影響を受けにくく、地下水位が高い場所でも安定して設置できます。これにより、地下水位の変動が大きい地域でも浮き上がるリスクを抑え、安全に雨水を貯留できます。
機能面の違い
プラスチック、コンクリートともに貯留・浸透の機能を有しています。プラスチック槽は、小型のキャストをいくつも組み合わせて作るのに対し、コンクリート槽は大型かつ一定の製品規格があり、水槽形状の自由度ではプラスチックの方が高いといえます。
空隙率(くうげきりつ)は、地盤と構造体の間にできる隙間の割合のことで、高いほどたくさん水を貯められることを示しています。コンクリート槽の平均空隙率が70~80%であるのに対し、プラスチック槽は93~96.5%となっています。
軟弱な地盤へ施工する際の影響として、コンクリート槽は超重量のため基礎杭などの補強工事を行う必要があるのに対し、プラスチック槽は部材自体が軽量なので地盤への影響も軽微です。
プラスチック | コンクリート | |
---|---|---|
用途 | 貯留・浸透が選択可能 | 貯留・浸透が選択可能 |
水槽の形状 | フレキシブル | 一定の製品規格に準じる (直方体が多い) |
空隙率 | 93~96.5% | 70~80% |
必要な用地(体積) | 小 | 小~中 |
軟弱地盤での影響 | 槽が軽いため影響は少ない | 槽が超重量のため基礎杭などが必要 |
参照元:天昇電気工業株式会社 【資料】「貯留浸透工法・雨水流出抑制施設の比較」
(https://premium.ipros.jp/tensho-plastic/catalog/detail/689664/)
施工方法の違い
プラスチックとコンクリートでは、材質の違いにより施工方法に大きな差があります。
コンクリートは超重量素材のため、搬入時には重機が必要となります。また、組立にも大型クレーン等が必要になり、施工に大きな労力を要します。一方のプラスチックは部材が超軽量で、人力で簡単に組み立てることができるため、労務工数も少ない点が特徴です。
プラスチック | コンクリート | |
---|---|---|
製品重量 | 超軽量 | 超重量 |
労務工数 | 小 | 中 |
資材搬入 | 小型車両でも搬入可能 | 大型車両での搬入 |
組立時の重機使用 | 不要 | 大型クレーン使用 |
施工性 | 人力で組立可能 | 重機による組立施工 |
維持管理面の違い
スタンド型のコンクリート槽内部が大きな空間になっているため、中に人が入ってメンテナンスすることが可能です。堆砂物を集める沈砂ますを槽に隣接させる形で設けることもあり、貯留浸透機能を維持しやすいというメリットがあります。
一方、耐震強度の面ではプラスチック槽に利があります。槽本体が軽量なため、揺れの影響を受けにくく、レベル2の地震動(震度6強から震度7相当)に対応します。
工期・コスト面の違い
コンクリート槽の施工は、プレキャスト資材を工場から輸送、搬入、組立するのに重機を必要とし、そのため人員や工期も多くかかります。一方、プラスチック槽の組立には重機や専門技術が必要なく、設置後の養生期間もないため、同規模のコンクリート槽の5分の1以下の工期に短縮することが可能です。
工期はコストに直接的に影響するため、コンクリート槽の方がコスト面では高くなります。コンクリートプレキャストとプラスチックの雨水貯留槽を比較した場合、直接工事費で2倍近くの違いが出ることが予想されます。特に、大型工事になるほど工事費用の差は顕著になります。
結局、コンクリート工法とプラスチック製品のどちらがいいの?
雨水貯留浸透技術協会が集計した施工実績によると、2019年度のプラスチック製貯留槽の施工容積はおよそ76.4万m³で、プレキャストコンクリート製の約5.5倍でした。このことから、現在はコストや工期面でメリットのあるプラスチック槽を採用する現場が増えていることがわかります。
参照元:城東リプロン公式サイトコラム「第4回:地下貯留施設の開発について」より
(https://lyprone.com/column/240/)
一方、コンクリート製貯留槽はプラスチックにない利点があり、地下水位が安定しない土壌(豊水期に浮力がかかる)や土被りを厚く取れない場合など、土地の条件によってはコンクリート製を採用するメリットが大きいケースもあります。
雨水貯留槽を選ぶ際には、工期やコストの比較はもちろん、用地条件やメンテナンス等についてもよく考慮した上で検討することをおすすめします。