近年、大雨やゲリラ豪雨による内水氾濫に備え、雨水貯留施設の整備が進んでいます。本記事では、雨水貯留槽の導入を検討されている企業の設備担当者様向けに、オープン式と地下式の違いやメリットを解説します。
オープン式(調整池)の問題
従来のオープン式(調整池)は、土地の占有、安全性、衛生環境の面でさまざまな課題が存在します。
土地の占有と景観の悪化
地上にプール状の大きな水槽を設置するため、貴重な敷地が占有されてしまいます。景観が損なわれるだけでなく、土地の評価額が下がる要因にもなります。
転落事故の危険性
一見すると穏やかな水面に見えても、水中は斜面や急に深くなっている箇所が存在します。水底はコケや溜まったゴミで非常に滑りやすくなっており、万が一転落した場合、大人の男性でも這い上がるのが困難なほど危険な構造です。
衛生環境の問題
常に雨水が溜まった状態となるため、コケや菌が繁殖し、虫が発生しやすくなります。また、ゴミの不法投棄を招きやすく、腐敗や水質汚染によって悪臭が発生するリスクも伴います。
地下式の雨水貯留槽のメリット
結論として、現在ではオープン式よりも「地下(埋設)式」の雨水貯留槽へ移行しつつあります。地下式はオープン式の課題を解決するだけでなく、施工や運用面でも大きなメリットがあるためです。
土地の有効活用と高い安全性
地下式の最大のメリットは、上部の土地をそのまま活用できる点です。地下に専用のプラスチック材などを埋設して雨水を貯めるため、地上部分は駐車場や公園として利用できます。これにより土地資産の価値を保全できると同時に、オープン式で懸念された転落事故や不法投棄といったリスクを未然に防ぐことができます。
省スペースで十分な貯水効率
プラスチック製の雨水貯留槽を使用した場合、内部の空隙率(水を貯める空間の割合)が95%に達します。砕石構造の施設と比較して3倍以上の効率で水を貯水できるため、限られた敷地面積であっても十分な容量を確保することが可能です。
工期の短縮と優れた耐久性
プラスチック製ユニットは軽量で、人力での組み立てが可能です。コンクリート工法に不可欠な養生期間が不要なため、施工期間を半分程度(約1ヶ月〜1.5ヶ月)に短縮できます。さらに、接合部材なしでも大型トラックが通行できる高い耐荷重性能や、大地震に耐えうる耐震性を備えているため、長期間にわたって安全に使用できるでしょう。
参照元:積水化学工業株式会社|大雨と水不足、両方に応える―社会を水害から守るクロスウェーブとは(https://www.sekisui.co.jp/connect/article/1440619_40890.html)
地下式の雨水貯留槽のデメリットは?
設置するための工事費がかかる点がデメリットといえるでしょう。掘削工事と雨水貯留槽の施工、さらに残土処分や人件費など、どうしてもある程度のコストが必要となってしまいます。
地下式雨水貯留槽における2大リスク(浮上・陥没)と具体的な防止策
地下式には多くのメリットがある一方で、地下埋設特有の物理的なリスクも存在します。これらのデメリットやリスクを回避するためには、適切な設計と客観的な施工基準の遵守が不可欠です。
1. 地下水による「貯留槽の浮上リスク」と事前調査
地下式における最大の懸念点のひとつが、地下水位の上昇による浮上リスクです。地下水位が高い場所に、プラスチック製などの空隙率が高く軽量な貯留槽を埋設すると、浮力によって槽全体が地表に押し上げられてしまう危険性があります。
これを未然に防ぐためには、事前のボーリング調査等で最高地下水位を正確に把握することが重要です。その上で、基礎部分へのコンクリート打設やアンカーによる固定、砕石を用いた加重など、客観的なデータに基づいた確実な浮上防止策を講じる必要があります。
2. 車両荷重による「路面陥没・わだち掘れ」を防ぐ設計基準
駐車場や車路の地下に雨水貯留槽を設置する場合、上部の舗装や土被り(土の厚み)が不十分であると、大型車両の通行荷重に耐えきれず、路面が陥没したりわだち掘れが生じたりする重大なリスクがあります。
このリスクを回避するには、T-25(総重量25tの大型車両)に対応した高強度な製品を選定することはもちろん、メーカーや関連協会の指針に従い、「最低限必要な土被り厚(例:600mm以上など)」と適切なアスファルト舗装の厚みを確実に確保することが設計上の絶対条件となります。
地下式を構成する2つの主要材質(プラスチック製 vs コンクリート製)
地下式の雨水貯留槽を導入する際、プロジェクトの総費用と工期を大きく左右するのが「材質の違い」です。ここでは、現場条件に合った最適な設備を選ぶための客観的な比較基準を解説します。
コストと工期を大幅に圧縮する「プラスチック製」
現在の民間開発プロジェクトにおいて主流となっているのがプラスチック製の雨水貯留槽です。空隙率が95%以上と極めて高く、同じ貯水容量でも掘削量および残土処分費を最小限に抑えられるという客観的なメリットがあります。
また、工場で生産された規格品の軽量部材を使用するため、現場での人力組み立てが可能です。大型重機が不要であり、コンクリート打設後のような養生期間も発生しないため、圧倒的な短工期で地下施設を構築できる点が最大の魅力です。
超大容量や特殊条件に適した「コンクリート製」
一方、公共事業における巨大な調整池のような数万㎥クラスの超大容量が求められる場合や、極端に土被りが浅い、あるいは深いといった特殊な荷重条件が存在する現場では、より堅牢なコンクリート製(現場打設工法やプレキャスト製品)が採用されるケースがあります。
強度や耐久性に優れる反面、強度が発現するまでの養生期間による工期の長期化や、部材の搬入・設置に伴う大型重機費用がかさむ点が、プラスチック製と比較した際の大きなデメリットとなります。
まとめ
雨水貯留槽を導入する際は、自社の敷地を有効活用できるか、施工期間を短縮できるか、そして長期的な安全性を担保できるかを判断基準としましょう。適切な雨水貯留槽を選ぶことで、浸水リスクの低減や無駄なコストの削減につなげることもできるでしょう。

