都市化と気候変動で水害リスクが高まるなか、特定都市河川浸水被害対策法は流域全体の治水を支える重要な法律です。指定制度から事業者の義務まで実務に必要な要点をわかりやすく解説します。
特定都市河川浸水被害対策法とは|制定目的と全体像
特定都市河川浸水被害対策法は、平成16(2004)年5月に施行された、都市部を流れる中小河川流域の浸水被害を防止するための法律です。市街化の進展により河道整備だけでは浸水被害を防ぎきれない流域を「特定都市河川」および「特定都市河川流域」として指定し、河川管理者・下水道管理者・地方公共団体が共同で「流域水害対策計画」を策定する枠組みを整えています。
令和3年の改正では「流域治水」の実効性を高めるため、雨水貯留浸透施設整備計画の認定制度や貯留機能保全区域・浸水被害防止区域の指定など、対策メニューが大幅に拡充されました。
参照元:国土交通省 特定都市河川ポータルサイト(https://www.mlit.go.jp/river/kasen/tokuteitoshikasen/portal.html)
参照元:JICE 解説・特定都市河川浸水被害対策法施行に関するガイドライン(https://www.jice.or.jp/tech/material/detail/18)
特定都市河川・特定都市河川流域の指定
指定の要件と全国の指定状況
特定都市河川は、都市部を流れ著しい浸水被害が発生・想定される河川であって、河道等の整備による対策が市街化の進展により困難な地域について指定されます。
指定・計画策定が進むことで、河川・下水道・流域対策を組み合わせた総合的な浸水被害対策が動き出す仕組みです。
東京都内・首都圏での指定事例
首都圏では、平成17(2005)年4月に鶴見川流域、平成26(2014)年6月に境川流域、令和6(2024)年3月に中川・綾瀬川流域が特定都市河川流域に指定されています。
鶴見川流域は東京都と川崎市にまたがり、川崎市においては市が指導する雨水流出抑制施策と一体で運用されています。中川・綾瀬川流域は東京都・埼玉県などにわたる広域指定で、埼玉県では令和7年7月1日から雨水浸透阻害行為の許可申請が必要となりました。
参照元:東京都都市整備局 特定都市河川浸水被害対策法(https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/chisui/sinsui_taisaku)
参照元:川崎市 特定都市河川浸水被害対策法(https://www.city.kawasaki.jp/kurashi/category/29-5-14-6-0-0-0-0-0-0.html)
参照元:埼玉県 特定都市河川浸水被害対策法第30条に基づく雨水浸透阻害行為の許可(https://www.pref.saitama.lg.jp/a1007/kasen/20240329tokuteitosikasen.html)
事業者が守るべきルール・雨水浸透阻害行為の許可
許可が必要となる開発と対策工事の義務
特定都市河川流域内で、1,000平方メートル以上の「雨水浸透阻害行為」(宅地等にするための土地の形質変更、舗装、排水施設を伴うゴルフ場・運動場等の新増設、建設機械による土地の締固めなど)を行う場合には、あらかじめ知事等の許可を得たうえで雨水貯留浸透施設を設置することが義務付けられます。
これは、開発に伴う雨水流出量の増加分を事業者側で抑制させる仕組みで、無許可の実施には罰則も設けられています。
参照元:埼玉県 特定都市河川浸水被害対策法第30条に基づく雨水浸透阻害行為の許可(https://www.pref.saitama.lg.jp/a1007/kasen/20240329tokuteitosikasen.html)
事前相談から許可・完了検査までの手続きの流れ
実務では、以下のような手続きの流れとなります。
- 自治体窓口で事前相談を行う
- 対象該当性や必要書類の確認
- 雨水浸透阻害行為許可申請書・計画説明書・貯留浸透施設の計算書等を提出
- 審査・許可
- 工事着手届・変更届の提出
- 完了時には工事完了届出書を提出
- 現地で完了検査を受ける
- 施設が検査に合格した場合、標識設置
既着手行為の適用除外について
特定都市河川浸水被害対策法第30条の許可制度は、指定日または適用日時点で既に工事に着手している行為には適用されません。
具体的には、既に工事着手済みの行為、都市計画法第29条の開発許可を受けているもの、事業採択済みで事業化されている行為、都市計画事業や土地区画整理事業として許可を受けているものなどが「既着手行為」として整理されています。
その他、農地法や県条例など他法令の許可を受けている場合も、許可権者の判断で既着手行為として扱われることがあります。
参照元:埼玉県 特定都市河川浸水被害対策法第30条に基づく雨水浸透阻害行為の許可(https://www.pref.saitama.lg.jp/a1007/kasen/20240329tokuteitosikasen.html)
雨水貯留浸透施設整備計画の認定制度
令和3年の法改正で新設されたのが「雨水貯留浸透施設整備計画」の認定制度です。民間事業者等が自ら整備する雨水貯留浸透施設について、都道府県知事等が計画を認定することで、公共性のある流域治水インフラとして位置付ける仕組みです。下水道法・河川法等の許認可がワンストップ化されるなどのメリットもあります。
また認定を受けた雨水貯留浸透施設に対しては、地方税法附則に基づき固定資産税の課税標準を軽減する特例措置が設けられており、施設整備の初期・維持コスト負担を抑える効果など期待できます。
事業者にとっては、開発に伴う義務対応にとどまらず、認定制度と税制優遇を積極的に活用することが、流域治水への貢献と経済合理性を両立させるポイントとなるのです。
保全調整池・貯留機能保全区域・浸水被害防止区域の指定制度
法改正により、既存の治水機能や氾濫リスクに応じて3つの区域制度が整備されています。
- 保全調整池:開発許可等に伴い設置された調整池のうち、都市浸水被害の防止上重要な既存施設を都道府県知事等が指定し、埋立てや廃止を規制する制度。
- 貯留機能保全区域:河川外で洪水時に自然に水を貯める田畑・低地等の機能を保全するために指定される区域で、大和川流域(奈良県川西町・田原本町)で全国初の指定が行われました。
- 浸水被害防止区域:洪水・雨水出水により生命・身体に著しい被害が生じるおそれがある区域について指定し、住宅等の建築の許可制や構造規制、既存住宅の移転支援等を組み合わせて安全性を確保する制度。
いずれも、流域全体で「ためる・そなえる」を実装するための重要な仕組みといえます。
まとめ
特定都市河川浸水被害対策法は、流域全体で浸水被害に備える「流域治水」の中核となる法律です。
指定エリアで開発を行う事業者には、1,000平方メートル以上の雨水浸透阻害行為への許可取得や貯留浸透施設の設置が義務付けられる一方、整備計画認定制度や固定資産税特例など活用可能な支援策も整えられています。
開発計画の初期段階から自治体窓口で相談し、適切な手続きと制度活用を進めることが重要です。

