市街化の進んだ都市部で被害が拡大する内水氾濫。その抑制策として注目される雨水貯留槽について、対策効果、設置場所、制度活用のポイントなどまとめました。
内水氾濫とは?
内水氾濫とは、長時間の雨や短時間の集中豪雨によって下水道や排水路の処理能力を超え、雨水が地表にあふれ出す現象を指します。
一方の外水氾濫は、河川や湖沼、海などの水位が上昇して堤防を越えたり決壊したりして市街地に流入する現象で、両者は発生メカニズムが異なります。
内水氾濫は、平野中の後背低地や旧河道、砂州で閉ざされた海岸低地、市街地化の進んだ丘陵・台地内の谷底低地、地盤沈下域やゼロメートル地帯といった土地で特に発生しやすいとされています。中でもアスファルト舗装が進んだ都市部は代表的な発生地です。
国土交通省の資料では、1993〜2002年の10年間で見た水害被害額に占める内水氾濫の割合が全国で約半分、東京都では約80%に達しており、堤防整備が進んだ都市部ほど内水氾濫が新たな課題として顕在化しています。
参照元:国土交通省「水害対策を考える 3-3-2 都市部で顕在化する『内水氾濫』」(https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/bousai/saigai/kiroku/suigai/suigai_3-3-2.html)
内水氾濫が発生する仕組み|市街化と雨水浸透能力低下の関係
市街化による地表面の変化と流出量の増加
樹林地・草地・畑・水田といった自然地は、雨水を地表面に一時貯留し、また地中へ浸透させる働きを持っています。しかし住宅の屋根や道路・駐車場などの舗装が広がると、雨水を受け止める地表が減少し、貯留・浸透能力が大きく低下します。
また路面舗装や側溝は地表の抵抗を小さくして流速を増大させるため、降った雨は短時間で低地に集中し、床上・床下浸水や道路冠水といった内水氾濫を引き起こします。
内水氾濫が起こりやすい地形・敷地条件
内水氾濫のリスクは地形条件によっても大きく変わります。以下がリスクが高いとされる地形です。
- 後背低地・旧河道・旧沼沢地などの平野中のより低い箇所
- 砂州・砂丘によって閉ざされた海岸低地や谷底低地
- 昔の潟を起源とする凹状低地
- 市街地化の進んだ丘陵・台地内の谷底低地
- 道路・宅地盛土等で助長される台地面上の凹地や浅い谷
- 排水条件が悪化した地盤沈下域・ゼロメートル地帯
窪地や遊水機能を持つ土地が市街化されると、本来の貯留機能が失われて内水氾濫の発生確率が高まる点にも注意が必要です。設計段階では、敷地のハザードマップと浸水履歴を必ず確認しておくことが求められます。
雨水貯留槽が内水氾濫対策として有効な理由
内水氾濫を防ぐ基本は、敷地外へ「流す」のではなく、敷地内に「溜める」「しみ込ませる」ことで、下水道や河川への急激な流入を抑えることです。
雨水貯留槽は、降雨のピーク時に雨水を一時貯留し、時間差でゆっくり放流することで、下水道の処理能力を超えないようピークカットする役割を果たします。
気候変動適応情報プラットフォームでは、内水氾濫の適応策として「連携による貯留浸透」が明確に位置づけられており、民間施設の地下等への雨水貯留施設設置に加え、道路・公園・学校等と連携した雨水貯留浸透の促進、グリーンインフラによる雨水浸透によって下水道への急激な雨水流入を緩和する方向性が示されています。
新座市などの自治体の資料でも、内水氾濫対策として雨水貯留槽の設置、雨水浸透桝の設置、敷地内の緑化、雨水浸透しやすい地表面の確保が具体策として挙げられており、雨水貯留槽は標準的な対策の一つと位置づけられています。
参照元:気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)「インフォグラフィック 内水」(https://adaptation-platform.nies.go.jp/local/infographic/4_inlandWater.html)
参照元:新座市「豪雨による内水氾濫への備え(内水氾濫の対策)」(https://www.city.niiza.lg.jp/site/bousai/saigai-usui.html)
内水氾濫対策として雨水貯留槽を設置する主な施設・場所
マンション・商業施設・工場など民間敷地での設置
マンション・商業施設・工場などの民間敷地は、雨水貯留槽の設置ポテンシャルが大きい代表的な場所です。
地下ピット・駐車場下・敷地内緑地の下など、上部利用と両立させながら貯留容量を確保しやすい点が特徴で、一定規模以上の開発では条例や特定都市河川浸水被害対策法により流出抑制対策が求められるケースもあります。
事業者にとっては、BCP対策の一環としてこうした対策が行われる場合もあります。
公園・学校・道路など公共空間との連携
民間敷地だけでは十分な貯留容量を確保しきれない都市部では、公共空間の活用が不可欠です。
校庭貯留、公園の地下貯留槽、透水性舗装や浸透ますと組み合わせた道路空間の活用など、面的に雨水を受け止める仕組みを整えることで、下水道単独では対応困難な大規模降雨時にも流出量の抑制が可能です。
設計段階から所管部局と連携し、上部利用(校庭・広場・駐車場など)と両立するタイプを選定しましょう。
設計・施工担当者が押さえたい雨水貯留槽の選定・関連制度のポイント
敷地規模・上部利用に応じたタイプ選定
雨水貯留槽は、敷地規模・地盤条件・上部利用の三点から総合的にタイプを選定します。狭小敷地では地下埋設型のプラスチック貯留槽やコンクリート製ピット型が主流で、大規模開発では調整池型や地下貯留施設が選ばれます。
上部を駐車場・広場・緑地として利用する場合は、耐荷重や維持管理性、清掃・点検スペースの確保も必須です。
雨水貯留浸透施設整備計画の認定・税制優遇の活用
特定都市河川浸水被害対策法に基づく特定都市河川流域では、民間事業者などが行う一定規模以上の容量や適切な管理方法等の条件を満たした雨水貯留浸透施設について、計画認定制度が創設されています。
地方公共団体や認定を受けた民間事業者等が流域水害対策計画に基づいて雨水貯留浸透施設を整備する場合、予算・税制の支援を受けることができ、固定資産税の特例措置も用意されています。
また、特定都市河川流域内では、宅地等以外の1,000㎡以上(条例で500㎡以上に引き下げ可能)の雨水浸透阻害行為に対して、都道府県知事等の許可と流出抑制対策工事が義務付けられており、開発計画の早い段階から関連制度の確認が欠かせません。
参照元:国土交通省「特定都市河川の指定による流域治水の本格的実践」(https://www.mlit.go.jp/river/kasen/tokuteitoshikasen/index.html)
まとめ
都市部では市街化に伴う地表面の変化により内水氾濫のリスクが高まっており、東京都では水害被害額の大半を内水氾濫が占めるほど深刻化しています。
雨水貯留槽は、敷地内で雨水を一時貯留してピークカットを図る有効な対策で、民間敷地から公園・学校・道路等の公共空間まで連携させることで面的な効果を発揮できるでしょう。

